2021/1/24 ミュージカル『パレード』(再演)

石川禅さんや坂元健児さんの歌が大変に魅力的で「ミュージカルにおける歌うま=説得力だよなあ。現代でもこうやって巧みに扇動する人がいるんだろうな」と思って見てたけど、まさにそここそがキモだったのかも。
そしてオープニングとエンディングで出てくるのは群衆であって、レオやルシール、ドーシーといった個人は出てこない。熱狂的に降られる旗と群衆と紙吹雪に埋没している。
NOT OVER YET.
(これが劇中では希望のある曲として歌われる「まだ終わりじゃない」とリンクしてるのに気づいたのは帰宅してからでした。えぐい)

感想(以下ネタバレを含む。予習の話は文末へ)

立ち上がれなくなるほどの衝撃!!ってことはなかった。
変に予習して息をつめて見すぎたのかもしれないし、立場の違う人たちが沢山出てきて(少なくとも黒人/ユダヤ人のような二項対立ではない)、こっちの理解が全く追いつかないのもある。

けどさー『パレード』ってさぁぁぁぁぁぁ(響くスネアドラム)。
そうね…パレードだったね…(突っ伏す)。
(萩尾望都『マージナル』の「贖いの祭りがあった」ってモノローグを思い出した)

それにしても、パンフレットの裏表紙にある「NOT OVER YET」という警句がここまで重いものになるなんて、開幕前は誰も想像しなかったろうな。
押し寄せる群衆と翻る南部連合の旗、数日前にニュースで見たぞ…もう21世紀も20年も過ぎたというのに。

…というえぐさを味わうはめになる(って他人事みたいに消費しちゃいけないのかもしれないけど)舞台だった。
上演される物語としてはそこまでのどんでん返しとは思わないけど、現実にあったのかよマジか、と。
過去の話にしておきたい、けどこの間同じようなことが起きてたよねアメリカ~~!!

以下雑感。

・歌が上手い。
とくにヒュー・ドーシー(石川禅)とジム・コンリー(坂元健児)の上手さが物語上でも説得力となって皆を扇動していくようで、現実でもよくあることに思えてなかなかの怖さ。
つーか石川禅さん、もっと背が低くてほんわか系と思ってたのに(『貴婦人の訪問』でしか観たことない)、すらっとしてて色悪か!?

・ルシール
途中で裏返るような声が苦手で、聞いていてつらいシーンがちょこちょこあった。
レオとルシール、スレイトン夫妻の2組の夫婦の物語としてとらえることもできるらしいけど、そこまで手が回らない。
スレイトン邸でのダンスパーティーはいろんなことを示唆しているんだろうけど、こちらの解像度が全く追いつかない。
ルシールとレオの夫婦は、事件前までは割と価値観の違う夫婦だったと思うんだけど、どちらもユダヤ人なんだよね。
(だからって価値観が合うわけでもないのは当然だけど、ルシールがよく分からないというか、あの時点での南部におけるユダヤ人って結局どんな感じの立ち位置だったんだろうなと)

・メアリーの友達の女子3人
ダンスが機械時掛け風だったのは、誰かに操られていますという暗喩よね?
あそこで急にダンスダンスするからびっくりするけど可愛い。

・フランキー
「フランキーは最後のメアリーとの記憶も書き換えてしまった」というツイートを見かけた。
たしかに。「サンシャイン~!!」って呼んでて、振り向いてくれそうだったのにね。かなしい。

・私刑だめ絶対。
当時は口をつぐんでいた目撃者の証言によってレオ・フランクの名誉が回復されたのは1980年代らしい。
「疑わしきは罰せず」というのは、こういう致命的な過ちを回避するための発明なんだろうなとぼんやり思いながら見ていた。
どんなに有罪に思えても、情ではなく法治システムで殴っていかないといけない。
(あの陪審員システム、どうなんですかね…)

・紙吹雪
冒頭から降る赤黄青緑の紙吹雪。
4色が同じ比率で偏りなく降ることに、まず感心(笑)。
そして片づけられることなく(!)舞台上に積もっていく。

・ミュージカル『イリュージョニスト』
同時期に上演されていた(3日間でコンサートバージョンになっちゃったけど)『イリュージョニスト』も冤罪が絡む物語で、両方を見た人の感想が興味深かった。
そちらでは紙吹雪が飛び散る血の表現に使われていたらしい。

・ブラックフェイス
初演は黒人役をブラックフェイスにしたことで批判が多かったらしい。
再演は黒いストールをねじって巻いている(枷あるいは首吊りの縄のようにも見える)。
多岐に及ぶ難しい問題ではあるんだけど、キャスト全員が日本人という状況で、黒人/ユダヤ人/白人を見分けるのってめちゃくちゃ難しい。
名前で見分けるほどの知識もないし、訛りってわけにもいかないし。

・見た席
2階最前列センターブロック。
全体を俯瞰できる好きな席位置だけど、少し遠く感じた。
(『人間風車』の2階サブセンの疎外感よりはだいぶマシ)
もうちょっと狭い視野で観たほうがいいのかな。
1席空けの千鳥配置にはなっていなかったけど、2階サブセン~サイドはほとんど空席。

予習のこと

もともとミュージカルがあまり得意ではない(「歌詞をちゃんと聞かないと話が分からなくなる」ことに最近気づいた)のと、時代背景などを知っていたほうがよかったという感想をちょくちょく見かけたので、予習することにして臨んだ。

チェックしたのは下記
1.https://horipro-stage.jp/stage/parade2021″>【公式サイト】あらすじ・人物紹介
2.【公式サイト】作品のモデルとなったレオ・フランク事件の解説(ネタバレ有と中を付けた上で別ページに飛ぶ)
3.Wikipediaのレオ・フランク事件の項目
4.http://www.ic.daito.ac.jp/~uriu/thesis/2005/fukaya.html”>アメリカのユダヤ人問題 (大東文化大のゼミ論文らしいので精度は分からないけど、さくっと読めて◎)

で、観た感想としては「結末は知らないほうが良かった」かな。
「実際に起こったこと」としては確かに「マジか…」となるけど、物語としてはそこまで衝撃的ではないかもしれない。

南北戦争と南部同盟について特に調べなかったのは、もともと『風と共に去りぬ』が好きだったから。
あれにはユダヤ人は出てこないので、そこを4で補う感じ。
(ジェラルド=オハラはレオみたいな人がいたら嫌いそう…)

レオ・フランク事件=風と共に去りぬ(南北戦争)の50年後、というのは、かなり理解に役に立った。
もちろん『風と共に~』はフィクションなので、勝手な脳内補完の可能性もあるけど、あの戦争に負けてもなお(負けたからこそ?)オールドスタイルを貫こうとする頑迷さ、南部の誇り、赤い大地にオーク、マグノリア…。
(映画版の序盤、父娘で土地について話してテーマ曲が流れるシーンはそのまんまだよね)
マーガレット・ミッチェルが『風と共に去りぬ』を書いたのは1920年代半ばで、レオ・フランク事件の約10年後。
南部の人に色々話を聞いて書いたらしい(新潮文庫から出ている写真集だったか『タラへの道』だったかに詳しい)けど、レオ・フランク事件のことはどう思ってたんだろう?


  • タイトル:ミュージカル『パレード』
  • 会場:東京芸術劇場プレイハウス
  • 会期:2021/01/15-2021/01/31
  • web:https://horipro-stage.jp/stage/parade2021/
  • 出演者:石丸幹二、堀内敬子、武田真治、坂元健児、福井貴一、今井清隆、石川 禅、岡本健一
  • 鑑賞日:2021/01/24
  • 書いた日:2021/01/29

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